INTERVIEW-1
ルミナコイドと健康・摂取の重要性①
インタビュー要約
Q:ルミナコイドとは?
A:日本食物繊維学会が提唱された言葉です。「ルミナコイド」という言葉が生まれた背景は、食物繊維だけでは語れない、腸内細菌のエサになって、お腹の中で発酵を起こす植物由来の食べ物をまとめて、「ルミナコイド」という言葉をつくられたのだと思います。

ルミナコイドの分類(出典:日本食物繊維学会)
Q:ルミナコイド(発酵性食物繊維)が重要な理由は?
A:ルミナコイドは腸内細菌のエサですから。それをちゃんと摂らなくてはいけない。しかし、日本人の食物繊維の摂取量はどんどん減少している。現代は、健康の事を考えて食事をする時代でなくなってきていると思っています。
Q:特に若年層でルミナコイド摂取量が不足している理由は?
A:ゆっくり食事をする習慣がなくなり、カロリーだけを計算して摂取してきている。食生活の変化がとても大きい。それを栄養学者も医学者も止めなかったのが、こういうことになってしまったのではないか。
Q:ルミナコイド不足が続くと、どうなる?
A:マウスや動物実験レベルでは、腸管の粘液層が減少し、バリア機能が低下して、消化管の局所の炎症が起きてしまう。これが一番大きな問題ではないか。
腸管の炎症は、生活習慣病、糖尿病、動脈硬化の増悪・促進に大きく関係している。
今や老化、加齢のベースにある慢性炎症の病態に最も重要なのは、腸内環境であり、腸内細菌であり、そのバリア機能だという事は明らかになりつつある。
その意味で、(発酵性)食物繊維の摂取減少は良くないこと。欧米は既に気付いて、食物繊維の摂取量に上がってきている。
Q:ルミナコイド不足を補う方法は?
A:食物繊維で重要なのは、水溶性・不溶性ではなく、腸内発酵性食物繊維か否か。高発酵なものと、そうでないものを区別すべき。医師も栄養士もこのことをもっと広める必要がある。
不足を補う具体的な方法は、主食で高発酵性食物繊維を摂るのが近道。ルミナコイドが入った玄米や古代米などを、白米に混ぜるのが一番良い。
動脈硬化など様々な生活習慣病を抑制するには、一日当たり24gのルミナコイドが最低ライン。
最近は、がんの治療でも(発酵性)食物繊維(ルミナコイド)が話題になっている。ルミナコイドの摂取量が多いほど免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いと言われており、そのラインが一日当たり20g。
つまり、一日当たり20~24gを目標にすると、主食を何とかしないとダメ。
後は、皆さん忙しく、食事も不規則だと思うので、サプリメントのようなものをうまく利用する。そればかりでもよくないですが。
ルミナコイドの一日あたりの摂取目標量を20gに設定すると、かなり努力しないと達成できません。それを今の子供たちにどうして分からせるか、切実な問題です。
ルミナコイドと健康・摂取の重要性②
インタビュー要約
Q:ルミナコイド摂取で不妊治療効果に変化があった?
A:世界トップレベルの不妊治療を行なっている大阪の病院の協力で、実験を行った。但し、二重盲検試験ではないので、エビデンスレベルは高くないですが。
不妊で悩んでいる方に、1日当たり10gの発酵性食物繊維(ルミナコイド)を増やした食事を4週間続けた。
すると、全員に副作用はなく、58.3%の人が妊娠をした。
被験者の便を事前に検査し、子供が既に生まれた人の腸内細菌と比較したところ、腸内細菌には大きな違いはなかった。
妊娠した人としなかった人で腸内細菌を比較すると、ビフィズス菌が多い人は妊娠しやすいということが分かった。食物繊維(ルミナコイド)を摂取してビフィズス菌が増えた人は妊娠しやすかったと考えられる。
Q:ルミナコイド摂取で腸内環境が変わる?
A:臨床試験を沢山やってきて分かったことは、食品でも薬でも効く人と効かない人がいるのは明らか。発酵性食物繊維(ルミナコイド)でも同じ。
その人の腸内細菌叢は、産まれてきたお母さんから引き継いできており、お母さんから大きな影響を受けている。妊娠でも6割には効いたが、4割には効かなかった。そこは見分けることは今後の課題。
Q:サルコペニア性肥満*の研究についてお聞かせください。
A:2017年から京丹後長寿コホート研究を行なっており、63歳以上350名を解析すると、サルコペニア(筋肉量が減少し身体機能が低下した症状)や歩行速度が遅い、握力が弱い人は10%もいなかった。
何故、多くの高齢者が元気なのか?この方々は肉をあまり食べていなかった。医者は、通常サルコペニア予防のために肉を食べるよう指導するため、この研究データとギャップがあった。
筋肉が必要としているのは、アミノ酸、特に分岐鎖アミノ酸が大事で、必ずしも肉を食べる必要は無く、分岐鎖アミノ酸があれば筋肉は作れる。また、それ以上に筋肉はが分解される(異化)反応もある。これは炎症によって進むと考えられている。
さらに、糖尿病になる運命の肥満マウス(DBDBマウス)を使った研究では、発症はしていないマウスに発酵性食物繊維(ルミナコイド)を与えたマウスと、与えないマウスに分けて育てていくと、発酵性食物繊維(ルミナコイド)がないと痩せていく。
そこで、DBDBマウスに発酵性食物繊維(ルミナコイド)を与えると、腸内環境が改善、全身の炎症も抑えられた。食物由来のアミノ酸によって、筋肉が作られ、維持できたことを証明した。
京丹後長寿コホート研究被験者たちの血液中のアミノ酸分析をやると、筋肉量とロイシンという分岐鎖アミノ酸がきれいに相関していることが分かった。つまり、摂取したたんぱく質と筋肉量との相関は全くない。
牛肉や豚肉など動物性たんぱく質を摂ろうとすると、通常動物性脂肪も含まれるため、腸内環境を悪化させる可能性が高まる。そのため、豆や豆腐などの植物由来か、日本人が古来から食べていた魚由来のたんぱく源を摂ることが、サルコペニア予防には重要ではないか。
Q:ルミナコイドは腸管での栄養吸収率に影響を与える?
A:昔の栄養学の教科書には、食物繊維(ルミナコイド)を摂るとミネラル類の吸収が阻害されると書いてある。
しかし、金属などの微量元素の吸収を抑制するものもあれば、吸収が良くなるものもある。おそらく食物繊維(ルミナコイド)の種類によって異なる。
栄養の吸収については、食物繊維(ルミナコイド)の種類毎に、どんな影響があるか、研究が必要。
ルミナコイドの健康・摂取の重要性③
インタビュー要約
Q:酪酸とは?
A:日本人の腸内細菌の中には酪酸菌がおり、酪酸を産生して制御性T細胞を誘導する、という有名な論文が数年前に発表された。また、がん患者の腸内に酪酸産生菌を投与した方が、免疫チェック阻害剤の抗腫瘍効果が高いという発表もあり、臨床で酪酸産生菌や酪酸が評価されるようになってきた。
日本人は元々色々な種類の酢酸産生菌を持っているので、普通に発酵性食物繊維(ルミナコイド)を摂っていたら酢酸菌も酪酸も増える。今こそ必要なのは、菌の摂取(プロバイオティクス)ではなく、腸内細菌が食べるルミナコイドだと思う。
ルミナコイドを母親が食べないと、次の次の世代では、もう取り返しがつかないことになると、マウスの実験で証明されている。
これから子供をつくろう、産もうと思っている世代に向けて、ルミナコイド摂取の重要性を啓蒙しなければならない。
Q:ルミナコイドが減ってしまうと、腸内細菌が腸管粘膜を食べてしまう?
A:腸内細菌は食べるものがなくなると、発酵性食物繊維(ルミナコイド)に似ている粘液層を食べる、と言われている。
皮膚は何層にも重なっていて頑丈だが、腸管は一層しかなくて、とても薄い。そのため、細胞に直ぐに傷がつくため、細胞の上に粘液が重なり、粘液層という物理的なバリア機能になっている。
食事や空腹な腸内細菌により、この腸管の粘液膜が減少するのは、慢性炎症の始まりだと言われている。
Q:絶食を何日も続けると、腸管粘液膜は薄くなる?
A:絶食は一番良くない。入院患者は食事をせずに点滴だけだと、腸管粘液膜が薄くなりバリア機能がなくなる。
絶食は最悪なので、少しでも食べなければダメですね。